「根府川の海」


ステータス:読了
評価(最高が5つ星):☆☆☆☆
覚えておきたい一文:

根府川
東海道の小駅
赤いカンナの咲いている駅
たっぷり栄養のある
大きな花の向うに
いつもまっさおな海がひろがっていた
中尉との恋の話をきかされながら
友と二人ここを通ったことがあった
溢れるような青春を
リュックにつめこみ
動員令をポケットに
ゆられていったこともある
燃えさかる東京をあとに
ネーブルの花の白かったふるさとへ
たどりつくときも
あなたは在った
丈高いカンナの花よ
おだやかな相模の海よ
沖に光る波のひとひら
ああそんなかがやきに似た
十代の歳月
風船のように消えた
無知で純粋で徒労だった歳月
うしなわれたたった一つの海賊箱
ほっそりと
蒼く
国を抱きしめて
眉をあげていた
菜ッパ服時代の小さいあたしを
根府川の海よ
忘れはしないだろう?
女の年輪をましながら
ふたたび私は通過する
あれから八年
ひたすらに不敵なこころを育て
海よ
あなたのように
あらぬ方を眺めながら…………。

ひとことコメント:
根府川駅は不思議な魅力がある駅です。ブログでも書きましたが、以前、熱海に行く時、東海道線でこの駅を通過した際に目にした海の青さが鮮烈でした。何年か後に、この駅を目指してしまうくらいに。だから、茨木さんのこの詩に描かれた根府川の情景はしっくりきます。

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