『むかしも今も』


ステータス:読了
評価(最高が5つ星):☆☆☆☆
覚えておきたい一文:

「あんたに負さって、あんたの背中を濡らした頃から、良人を持って、子を生んで、その子が四つになる今日まで、あたしはずっとあんたの世話になりとおしたわ、−−辛いとき悲しいとき、苦しくって堪らないとき、いつも助けて呉れたのはあんただった、……あんたひとりだったわ、直さん」
 まきは身もだえをし、きりきりと歯をくいしばって嗚咽を耐えた。
「あたしのことを本当に心配し、あたしのために本気で泣いて呉れたのは、この世の中で直さんたったひとりよ、−−眼が見えなくなってから、初めてそれがわかったの、なんにも見えないまっ暗ななかで、じっと坐って考えているうちに、だんだんそれがはっきりしてきたわ、……眼の見えるうちは気もつかないようなことが、見えなくなってからはよくわかるの、−−あのひとを良人に選んだのは眼が見えたからよ、見えない今は声だけでわかるの、……なにもかもよ、直さん」

ひとことコメント:
『柳橋物語』とセットで入っていた作品。引用したのは失明した女性の告白。視力を失ってはじめて大切な人の存在に気づく。目に見えることだけで物事をとらえてはいけないですね。

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