『カッシアの物語』

ステータス:読了
評価(最高が5つ星):☆☆☆☆
覚えておきたい言葉:

「じつにすてきな言葉と洗練された決まり文句が並んでいるね」
 その言葉に素直に感謝すべきだけど、次にもっと大切な言葉が続くことがすぐにわかった。
「でも、おまえ自身の言葉がひとつもないよ、カッシア」おじいさんは優しく言った。
 涙にかすむ目を伏せて、自分の手を見た。このソサエティに生きる人のほとんどがそうであるように、わたしの手は自分の言葉を書くことができない。知っているのは他人の言葉を使い回すことだけ。おじいさんをがっかりさせるような言葉しか知らない。わたしもブラムのように石でも拾ってくればよかった。あるいは何も持ってこないか。おじいさんをがっかりさせるくらいなら、手ぶらで来ればよかった。
「おまえはおまえ自身の言葉を持っているんだよ、カッシア」とおじいさんは言った。「その一部はすでに聞いたことがあるし、じつに美しい言葉だったよ。それに、ここに来てくれたことで、すでに贈り物はもらっているんだよ。この手紙は、おまえからのものだから、それだけでもう十分なんだよ。おまえの気持ちを傷つける気はまったくないんだ。ただ、おまえには自分自身の言葉を信じてほしいだけなんだよ。わかるね?」

 あの少年のことをもっと知りたいと、わたしは思った。その過去に何があったのか。間違いだといわれた自分の結婚相手について、もっとよく知りたいと思った。でも今は、彼について何か知ることは、自分自身を知るための方法みたいな気がする。彼の言葉を愛するなんて思ったことはなかった。彼の言葉のなかに自分を発見できるかもしれないと思ったこともなかった。
 だれかの物語に恋することは、その本人に恋することと同じだろうか。

 わたしの話し相手が、ひとりひとり去っていく。おじいさん。そして今、ザンダーが去っていった。
 こんなものなしでやっていけるほど、おまえは強いんだよ。緑の錠剤について、おじいさんはわたしにこう語った。
 でも、おじいさん。あなたなしでやっていけるほど、わたしは強くない。ザンダーもカイもいなくなったら、わたしはどうすればいいの?

優しくなってはいけない、あの安らかな夜に入っていくときに、
老齢は日の暮れに燃え上がり、荒れ狂うがいい、
怒れ、怒れ、光の死に抗して怒れ。
賢者たちは臨終のとき闇こそ正しいと知りながら、
自分たちの言葉が一瞬の稲妻を貫いたこともなかったがゆえに
彼らは優しくなることもない、あの安らかな夜に入っていくときに。

感想など:「みずから引き起こした地球温暖化のせいで、人間の文明が一度滅びてしまったあとに再建された社会(ソサエティ)。それは役人がすべてを管理し、決定する社会だった。結婚も、職業も、死さえも。病気や不安や争いごとのいっさいない、健康で平和な社会のなかで、17歳の主人公カッシアは真実の愛と選択の自由を求めて旅立つ……」(あとがきより)。なんとなく気になっていて予約していた本が図書館に届いた。
上述したあらすじを読むと陳腐な話かと思うかもですが、なかなかどうして面白かった。ドタバタ劇とかなく抑制的に進んで行く展開がいい。3部作みたいですが、続きも翻訳されるのか気になる。

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