「あのひとが来て」谷川俊太郎

自由が丘に再オープンした青山ブックセンターに行った。
偶然、5時から谷川俊太郎さんのトークショーが始まった。
初めて見る谷川さんは、 年齢を感じさせない、
ガチッとした身体つきをしていた。
イサム・ノグチさんの晩年とよく似ている気がした。

トークショーの最後、
谷川さんによる一篇の詩の朗読があった。
「あのひとが来て」という詩だった。
その朗読を聴いて、「ああ、詩は読むだけのものではなく、
耳で聴くものでもあるんだな」と思った。
当たり前のことかもしれませんが、改めて。
言葉の力を感じた、いい時間でした。

「あのひとが来て 長くて短い夢のような一日が始まった
あのひとの手に触れて あのひとの頬に触れて 
あのひとの目をのぞきこんで あのひとの胸に手を置いた
そのあとのことは覚えていない
外は雨で一本の木が濡れそぼって立っていた
あの木は私たちより長生きする
そう思ったら突然いま自分がどんなに幸せか分かった
あのひとはいつかいなくなる
私も私の大切な友人たちもいつかいなくなる
でもあの木はいなくならない
木の下の石ころも土もいなくならない
夜になって雨が上がり星が瞬き始めた
時間は永遠の娘 歓びは哀しみの息子
あのひとのかたわらでいつまでも終わらない音楽を聞いた」『夜のミッキーマウス』(新潮社)収録作品

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